乳腺専門医、形成外科専門医、マンモグラフィー読影認定医、がん治療認定医
京都駅前 まつたに乳腺・形成外科クリニック

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乳がんについて

乳がんは、乳房内の乳腺組織に生じる悪性腫瘍です。日本では、女性の9人に1人が乳癌を経験すると言われています。この病気は女性にとって最も罹患率の高い疾患で、50歳前後の世代で発症率が高くなります。しかし、適切な検査を定期的に行うことで、早期発見・治療につながり、高い治癒率が期待できます。 初期の段階では自覚症状が少ないため、定期的な検診が非常に重要です。マンモグラフィや超音波検査などの検査を受けることが推奨されます。

初期段階では症状がほとんどありません。乳癌患者の多くは、しこりの自覚や検診での指摘によって、医療機関への受診につながります。腫瘍の大きさ、部位、乳房の大きさによって、自覚のされ易さは様々です。これらの症状がないからといって乳がんではないとは過信してはいけません。

しこり

腫瘍が増大すると、しこりが自覚されやすくなります。部位と位置にもよりますが、しこりが1-2 cm以上になると、自分で気が付く頻度が上がります。3 cm以上の大きさであれば、外観の変化が見られるため、家族が気づく場合もあります。 適切なエコー検査を行えば、3 mmの乳癌でも診断になつがるケースがあります。すべてのしこりが乳癌ではなく、乳腺症、線維腺腫、良性・境界型・悪性葉状腫瘍の場合もあります。しこりに気付いた場合は、早めに専門の医療機関での診察を受けて頂くことをお勧め致します。

皮膚のへこみ、ひきつれ

乳癌のしこりが、皮膚が巻き込みえくぼのような、ひずみ・凹みを認める場合があります。そのひずみや凹んだ部分に丁寧に診察すると乳癌によるしこりを感じることができます。また、腫瘍が乳頭直下の場合は、乳頭中央部が、陥没することもあります。これらの症状は乳癌の可能性が高くなります。

乳頭からの分泌物

乳癌は固くもろいため、乳管をつたって乳頭から血が混じった茶褐色の分泌液が出ることがあります。乳頭から継続した血性分泌が見られる場合は、専門医による検査を受けることをお勧め致します。

乳頭の赤い腫れ・ただれ

乳頭部に、いつまでも続く赤い腫れやただれが見られる場合もは、Paget病が疑われます。適切な生検による検査が必要です。

乳がんの発症には多くの要因が複雑に絡み合っています。主な原因は、食文化の欧米化です。身長が伸び・グラマラスな体系になり、寿命が延び生活が豊かになった反面、初潮が早く・閉経が遅くなるため女性ホルモンにさらされる期間が長くなります。その間に、ボタンの掛け違いが起こり乳癌の発生頻度が上がります。 以下の条件に該当する人は乳がんを発症するリスクが高くなるため、注意が必要です。

  • 初経年齢が早い
  • 閉経年齢が遅い
  • 出産経験がない
  • 授乳経験がない
  • 初産年齢が遅い
  • 閉経後に太った
  • 喫煙歴がある
  • 飲酒の量が多い
  • ご家族の中に乳がん・卵巣がんにかかった方がいる
  • ホルモン補充療法を受けたことがある、または受けている

ステージ しこりの大きさ・リンパ節への転移状況 5年純
生存率
10年純生存率
0期

しこりは触れず、リンパ節や他臓器への転移はしていない。

100.00% 100.00%
Ⅰ期

しこりは2cm以下で、リンパ節や他臓器への転移はしていない。

98.9% 94.1%
ⅡA期

しこりは2cm以下で、腋窩リンパ節転移が認められる。もしくはしこりが2~5cmでリンパ節や他臓器への転移がない。

94.6% 86.6%
ⅡB期

しこりは2~5cm以下で腋窩リンパ節転移が認められる。もしくはしこりが5cm以上でリンパ節や他臓器への転移がない。

ⅢA期

しこりは5cm以下で腋窩リンパ節転移があり、そのリンパ節が固定されて動かない、または互いにくっついている。もしくは、しこりが5cm以上で、腋窩リンパ節または内胸リンパ節転移がある。

80.6% 62.7%
ⅢB期

しこりの大きさやリンパ節への転移に関わらず、しこりが胸壁に固定されていたり、皮膚にむくみや潰瘍、目に見えるこぶがある。

ⅢC期

しこりの大きさに関わらず、腋窩リンパ節と内胸リンパ節両方に転移が認められる。もしくは、鎖骨の上下にあるリンパ節にまで及ぶ転移がある。

Ⅳ期

しこりの大きさに関わらず、リンパ節転移の有無に関わらず、他の臓器への転移がある。

39.8% 16.9%

国立研究開発法人国立がん研究センター 院内がん登録2014-2015年5年生存率
国立研究開発法人国立がん研究センター 院内がん登録2011年10年生存率

乳腺外科医と形成外科医が連携して治療を行う、オンコプラスティックサージャリーが行われるようになりました。乳癌の根治性と乳癌術後の整容性を考慮した外科的治療が望まれます。

手術療法

●乳房温存手術

乳房部分切除術とも言われています。乳輪・乳頭を温存し、しこりとその周囲の組織を含めた乳房の一部を切除する手術です。乳房の著しい変化をきたさないデザインが重要です。

●乳房切除術

大胸筋と小胸筋を切除することなく、乳頭乳輪を含め、乳房全体を切除する手術です。乳房再建を行う場合と、行わずに切除のままとの二つの選択肢が生まれます。

●乳房再建手術

乳癌の切除後、形成外科医によって変形・失われた乳房を形成・再現します。インプラント(人工乳房)や自家組織を用いて、乳房の膨らみを取り戻します。

●センチネルリンパ節生検

乳癌手術の際に、センチネルリンパ節生検(リンパ節採取)を行い、乳癌の転移があるかどうかを確認します。センチネルリンパ節とは、がん細胞が最初にたどり着くリンパ節になります。転移がないと判断された場合には、腋窩リンパ節を郭清する必要がなくなります。

●腋窩リンパ節郭清

術前の検査で腋窩リンパ節に転移の可能性が高い場合には、そのレベルに応じてI ~ III群のリンパ節を郭清する手技になります。

薬物療法

●ホルモン治療

エストロゲンという女性ホルモンの影響で、増殖・成長する乳癌の場合には、エストロゲンの働きや産生を抑制するホルモン療法が効果的になります。

●抗がん剤

主に点滴ルートから抗がん剤を使って細胞の増殖・活動を抑える治療法です。癌細胞は、正常な細胞よりも細胞分裂能が高いため、抗がん剤がより効果的に作用します。

●分子標的治療薬

HER2という特殊なタンパク質で覆われた細胞に対して、ピンポイで効果を発揮する治療薬です。この薬がHER2タンパクに結合することで、がん細胞の活性が抑えられます。

放射線治療

乳房温存手術後には、放射線治療がセットになります。照射を行うことで再発率が1/3に低下します。乳房切除を行った場合でも、4個以上のリンパ節転移が見られる場合には、放射線治療を併用します。

乳癌初期治療後、最低10年間の定期検診が必要になります。検査内容は、マンモグラフィ、乳房超音波検査や採血などです。また、乳房のセルフチェックも毎月1回、必ず行うようにしてください。
再発の可能性を少しでも低くするためには、手術後の適切な治療と継続的なフォローアップが重要です。
非浸潤がんと診断された場合は、乳管や小葉内にがん細胞がとどまっている段階で、転移の可能性はほぼないとされており、ほとんどで完治が見込まれます。乳房温存手術を受けた場合は、放射線治療を併用します。
浸潤がんがあった場合は、サブタイプに応じた薬物療法が行われます。
サブタイプとは、がん細胞の遺伝子の特徴によって乳がんを分類する方法です。

サブタイプによる治療法の分類

ステージ ホルモン受容体陽性 ホルモン受容体陰性
増殖 増殖能力が低い 増殖能力が高い
HER2陰性 HER2陰性、ルミナールB(HER2陰性)
<ホルモン療法+抗がん剤療法>
トリプルネガティブ
<抗がん剤療法>
HER2陽性 ルミナールHER2
<ホルモン療法+抗がん剤療法+分子標的療法>
HER2タイプ
<抗がん剤療法+分子標的療法>

●ルミナールA

増殖能力が比較的低いルミナルAタイプは、典型的なホルモン受容体陽性の乳がんです。このタイプのがんは女性ホルモンを利用して成長するため、ホルモン療法が推奨されます。ただし、乳房切除手術で多くのリンパ節転移が見つかった場合や、がん細胞の悪性度が高い場合は再発のリスクが増すため、化学療法の追加も検討されることがあります。

●ルミナールB

ルミナルAタイプと同じくホルモン療法が有効ですが、増殖能力が高いため、多くの場合、ホルモン療法に加えて化学療法も実施されます。化学療法のレジメンについては、再発リスクなどを踏まえて選定されます。

●ルミナールHER2

基本的な治療法には、抗がん剤治療、分子標的治療、そしてホルモン療法が含まれます。放射線治療が必要な場合は、まず抗がん剤治療を行い、その後に放射線治療を実施します。ホルモン療法は放射線治療と併用することが可能です。また、術前に抗がん剤治療を受けた場合、手術後には分子標的治療やホルモン療法、放射線治療が行われることがあります。

●HER2

基本的な治療には抗がん剤治療と分子標的治療が含まれます。放射線治療が必要な場合は、まず抗がん剤治療を終えた後に実施します。術前に抗がん剤治療を受けた場合は、手術後に分子標的治療や放射線治療が行われます。

●Triple Negative (トリプルネガティブ)

このサブタイプは、ホルモン受容体とHER2タンパク質の両方を持たない乳がんのタイプで、抗がん剤治療が基本的なアプローチです。放射線治療が必要な場合は、まず抗がん剤治療を完了した後に実施します。術前に抗がん剤治療を受けた場合は、手術後に放射線治療が行われます。

再発の治療方法は、局所再発と遠隔転移再発で大きく異なります。局所再発の場合、再発した部位を手術で切除した後、必要に応じて放射線治療や薬物療法を追加し、さらなる再発を防ぎます。一方、遠隔転移再発の場合は、がんの根治を目指すのではなく、がんの進行を抑えたり、症状を軽減したりして生活の質(QOL)を維持しながら、がんと共に生活するための治療を行います。